大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松地方裁判所 平成2年(ワ)296号 判決

原告

佐藤正夫

被告

全国労働者共済生活協同組合連合会

右代表者理事

藤原久

右訴訟代理人弁護士

遠藤誠

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が被告の事業として実施する個人定期生命共済契約に基づく権利を有することを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第2  当事者の主張

一  請求原因

1  原告(昭和三六年一二月一四日生、金融業)は、被告との間で、一九八三年(昭和五八年)一一月二九日、被告が事業として実施する個人定期生命共済契約(通称こくみん共済契約、以下本件共済契約という)を締結した。

2  しかるに、被告は、一九九〇年(平成二年)六月一日以降、原告が本件共済契約に基づく権利を有することを争う。

よって、原告は、被告に対し、原告が本件共済契約に基づく権利を有することの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

認める

三  抗弁

1  本件共済契約は、期間が一年と限られている。但し、期間満了日までに契約者から契約を更新しない等の申出がなされない限り、同一内容の契約申込がなされたものと擬制し、承諾する場合には、被告は、契約者に対し、更新通知書を発する取扱をしており、原告の場合も六回に亘り更新がなされてきた。右申込を承諾するか否かは被告の自由であり、被告は、一九九〇年(平成二年)五月三一日の期間満了に際し、その後の契約申込みを承諾しないことに決したので、平成二年五月中旬頃、原告に対し、その旨の通知をした。

2(一)  仮に、被告の承諾の自由が制限されているとしても、本件共済契約において、「被告が、被共済者であることを不適当であると認める者である場合」には、契約の更新をしない旨の特約がある(個人定期生命共済事業規約(以下規約という)一五条一項二号)。

(二)  しかるところ、原告には、次のような保険事故歴がある。

(1) 一九八四年(昭和五九年)三月三日から同年四月二一日まで、十二指腸潰瘍で入院したとのことで被告は、原告に対し入院共済金七万五〇〇〇円を支払った。

(2) 同年一二月一八日、原告は、自ら運転する自動車をブロック壁にぶつけ、同日から一九八五年(昭和六〇年)四月二八日まで、頭頸部外傷・胸部打撲・両上肢不全麻痺・下唇部挫創・右手首打撲で入院し、更に同年四月二九日から七月一〇日まで通院したとのことで、被告は、原告に対し、傷害特約共済金六九万一〇〇〇円を支払った。

(3) 一九八七年(昭和六二年)一月一四日から同年三月二一日まで十二指腸潰瘍で入院し、同年三月二二日から五月六日まで通院したとのことで、被告は、原告に対し、病気入院共済金一〇万五〇〇円を支払った。

(4) 一九八九年(平成元年)二月四日、原告は、原告運転車が停車中、前のタクシーが急にバックしてきて衝突したとの交通事故に遭い、頸椎捻挫で同年二月一〇日から三月一二日まで入院し、同年三月一三日から六月一〇日まで通院したとのことで、原告は被告に対し、入院共済金の請求をしたが、いわゆるむちうち症であることが判明したため、規約四八条二項本文の免責規定により、被告は支払を拒否した。

以上(1)ないし(3)の支払総額八六万六五〇〇円

(三)  右の事故歴に鑑みるとき原告は規約一五条一項二号にいう「被共済者として不適当であると認める者」に当るというべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実中、本件共済契約の期間が一年であり、これが一九九〇年(平成二年)五月三一日まで自動更新されてきたこと、被告は、同年五月中旬頃、原告に対し、その後の更新を拒絶する旨の通知をしたことは認めるが、その余は否認する。被告は、「加入者として不適当と認めた場合」でなければ契約更新を拒絶できないと解すべきである。

2(一)  抗弁2(一)の事実は認める。

(二)  同2(二)の事実は明らかに争わない。

(三)  同2(三)の事実は否認する。規約一五条一項二号の判断資料としての個人定期生命共済事業細則(以下細則という)一二条三号にいう「共済契約者または被共済者が過去に数度の事故にあい、保険金又は共済金を取得していたとき」とは、「複数の許容限度」を超え、かつ「定款一条の目的に照らし不適当であると認めた者」(規約二八条三項)でなければならないが、原告の場合は、これに当らない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因事実、抗弁1の事実中、本件共済契約の期間が一年であり、これが一九九〇年(平成二年)五月三一日まで自動更新(期間満了日までに契約者から契約を更新しない等の申出がなされない限り、同一内容の契約申込がなされたものと擬制し、被告はこれを承諾するとの取扱を指すものと解される)されてきたこと、被告は、一九九〇年(平成二年)五月中旬頃、原告に対し、右期間満了後の更新を拒絶する旨の通知をしたこと及び抗弁2(一)の事実は、いずれも当事者間に争いがなく、抗弁2(二)の事実は、原告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。

二まず、抗弁1の事実について判断するに、〈証拠〉によれば、規約一五条一項は、「被告は、共済期間の満了する規約について、当該共済契約の満了日までに共済契約者から契約を更新しない意思又は変更等の申出がされない場合は、満了する共済契約と同一内容(規約又は細則の改正がなされたときは、改正後の規約又は細則による内容)で、共済期間の満了の日の翌日(更新日)に更新して継続するものとする。但し、次の各号のいずれかに該当する場合を除く。(1)満了日の翌日において被共済者が第七条(被共済者の範囲)に定める範囲外である場合、(2)被告が、被共済者であることが不適当であると認める者である場合」と定めている。

右規定内容からすれば、更新申込を承諾するのが原則であり、同項一号又は二号の場合は例外的なものとして、これに該当する場合にのみ、被告は、共済契約者からなされた更新申込を拒絶できると解するのが相当である。

なお、証人田村健一の証言によれば、右申込を承諾するかどうかの判断は、更新の都度なされるものと認められる。規約一五条二項の「前項の取扱は、連続しては四回を限度とする」との規定は、申込を擬制する取扱が連続して四回までとする旨を定めたものと解するのが相当である。

よって、抗弁1は理由がない。

三1  そこで抗弁2(三)の事実について判断するに、規約一五条一項二号にいう「被告が、被共済者であることを不適当であると認める場合」に該当するか否かについては、被告における同号適用についての他の運用例に照らし、原告に対する更新拒絶が著しく不合理でないかどうかとの観点から判断すべきであり、かつこれをもって足りるというべきである。

2  しかるところ、〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

(一)  訴外増子明栄(昭和四三年一一月三日生、無職)

同人は、一九八六年(昭和六一年)九月一三日、こくみん共済に加入し、一九八九年(平成元年)九月三〇日をもって更新を拒絶された。この間、次のとおり二回の保険事故歴がある。

(1) 第一回入院(疾病) 十二指腸かいよう症で一九八七年(昭和六二年)二月六日から同年六月九日まで一二四日間入院し、共済金一八万六〇〇〇円を支払った。

(2) 第二回入院(疾病) 椎間板ヘルニアで一九八八年(昭和六三年)六月二九日から同年一〇月三一日まで一二五日間入院し、共済金一八万七五〇〇円を支払った。

(二)  訴外中村敏彦(昭和二九年一一月八日生、会社員)

同人は、一九八七年(昭和六二年)三月一九日、こくみん共済に加入し、一九九〇年(平成二年)三月三一日をもって更新を拒絶された。この間、次のとおり三回の保険事故歴がある。

(1) 第一回入院(交通事故災害) 車両相互の追突の交通事故で一九八八年(昭和六三年)一一月四日から同年一二月一五日まで四二日間入院し、共済金三三万六〇〇〇円を支払った。

(2) 第二回入院(疾病) 胃かいようで一九八九年(平成元年)三月一日から同年四月一日まで三二日間入院し、共済金六万四〇〇〇円を支払った。

(3) 第三回入院(傷害) 右尺側手根伸筋腱脱臼で一九八九年(平成元年)四月一日から同年五月二四日まで五三日間入院し、共済金請求したが、免責となった。

(三)  訴外山尾太(昭和四〇年六月一九日生、喫茶店店員)

同人は、一九八四年(昭和五九年)二月二一日、こくみん共済に加入し、一九九〇年(平成二年)五月三一日をもって更新を拒絶された。この間、次のとおり三回の保険事故歴がある。

(1) 第一回入院(交通事故災害) 後方より追突される交通事故で一九八四年(昭和五九年)四月二日から同年六月六日まで六六日間入院し、共済金一九万八〇〇〇円を支払った。

(2) 第二回入院(交通事故災害) 出会頭の衝突に同乗していた交通事故で一九八七年(昭和六二年)一〇月一二日から同年一二月一六日まで六六日間入院し、共済金三三万円を支払った。

(3) 第三回入院(交通事故災害) 車両相互の正面衝突の交通事故で一九八九年(平成元年)六月二九日から同年九月九日まで七三日間入院し、同年九月一〇日から同月一七日まで八日間自宅療養し、共済金五九万六〇〇〇円を支払った。

(四)  訴外山本謙二(昭和二九年二月二七日生、食堂店員)

同人は、一九八四年(昭和五九年)三月二〇日、こくみん共済に加入し、一九九〇年(平成二年)五月三一日をもって更新を拒絶された。この間、次のとおり二回の保険事故歴がある。

(1) 第一回入院(交通事故災害) 子供の自転車と接触する交通事故で一九八七年(昭和六二年)六月一〇日から同年一〇月一日まで一一四日間入院し、共済金五七万円を支払った。

(2) 第二回入院(交通事故災害) 原付自転車運転中、普通自動車と側面衝突する交通事故で一九八八年(昭和六三年)一一月七日から一九八九年(平成元年)二月六日まで九二日間入院し、同年二月七日から同月二八日まで二二日間自宅療養し、共済金四八万二〇〇〇円を支払った。

(五)  訴外松下保(昭和二二年四月二一日生、車解体業)

同人は、一九八五年(昭和六〇年)一月一日、こくみん共済に加入し、一九九〇年(平成二年)五月三一日をもって更新を拒絶された。この間、次のとおり三回の保険事故歴がある。

(1) 第一回入院(疾病) 痔ろうで一九八六年(昭和六一年)一月二四日から同年三月四日まで四〇日間入院し、共済金六万円を支払った。

(2) 第二回入院(疾病) 高血圧症、肝機能障害、過敏大腸症で一九八八年(昭和六三年)三月一四日から同年七月一六日まで一二五日間入院し、共済金一八万七五〇〇円を支払った。

(3) 第三回入院(交通事故災害) 車に同乗し、追突される交通事故で一九八九年(平成元年)七月二四日から同年一〇月九日まで七八日間入院し、同月一〇日から同月一六日まで七日間自宅療養し、共済金請求したが、免責となった。

なお、右五名の者は、右各更新拒絶に対し、いずれも異議を申立てていない。

3  そして、原告の保険事故歴は、抗弁2(二)記載のとおりであるところ、更新拒絶に関する右の各運用例に鑑みるとき原告に対する更新拒絶が著しく不合理であるとは認められない(〈略〉)。

よって、原告が規約一五条一項二号にいう「被共済者として不適当であると認める者」に当るとした被告の判断は正当として是認でき、抗弁2(三)は理由がある。

四以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官吉田肇)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例